Hidari Zingaro

2019年10月11日(金) - 2019年10月29日(火)

Tyrrell Winston個展「The World Is Filled…」

この度ではHidari Zingaroは2019年10月11日から29日まで、ニューヨークに拠点を置くアーティスト、タイレル・ウィンストンによる個展「The World Is Filled…」を開催いたします。

日本では初となる今回の個展は、マンハッタンやブルックリンの街角に捨てられていたところを作家が拾い集めてきたスポーツ用品を通して、我々の生と死に対する捉え方を掘り下げるものです。ごみの山に埋もれた空気の抜けたボールたちは、忘れ去られ、存在を無視され、ほとんど何の役にも立ちません。しかしウィンストンの作品は、そのがらくたの塊の中に息づく命に焦点を合わせます。使用済みだったり、拾ってきたりしたボールのみを使った彼の制作手法は、公益に資する行為であり、考察する行為であり、また一見するととりたてて重大な意味を持っていなそうな、人間の存在を記録するそれらの物体の中に恒久的に残されたエネルギーに魅せられた行為でもあります。展示されているボールはどれも、作家が与り知らないそれぞれに独立した生活を送ってきており、かつてはスポーツの試合でチームや観客をひとつにする役割を担っていました。それらのひとつひとつが宿す無数にも思える物語は、表面に残された使用感や傷を眺めたとき、明白に浮かび上がってきます。

こういったボールは世界中の都市や郊外のあらゆるところで見受けられるもので、都会と田舎という区別こそあれ、郊外のガレージで箱にしまい込まれたまま何年も忘れ去られているボールたちも、都市の側溝に落ちているつぶれたボールも、同じようにチームワークと希望、そして団結の歴史を象徴しています。それらの物体は当初意図されていた機能は失ったかもしれませんが、決して死んでしまったわけではないのです。

作家から本展によせて

スポーツは、世界で最も強力に人々を団結させるものであるということになっている。たとえそれぞれが別のチームを応援していたにしても、スポーツの名のもとに異なるグループの人々が集結するということだ。でも今の政治の風潮は、(少なくともアメリカの)プロスポーツを分断の源に変えてしまっている。スポーツとスポーツ選手は、暗い時代にあっても希望の砦であり続ける。世界で最も偉大なパフォーマンスアートのいくつかは、競技場で生まれてきた。

Tyrrell Winston
Tyrrell Winston
タイレル・ウィンストン

タイレル・ウィンストンは、1985年生まれ。ニューヨークに生活と制作の拠点を置く。この2年の間に、ベルギーやフランス、スウェーデンにて個展を開催。ウィンストンの平面および立体作品は、廃棄されて汚れ(物理的にまたは社会的に)、忘れ去られてしまった物体を、何年にもわたり再構成し続けた結果、生まれている。

彼の作品はまた、対照的な物体がそれぞれに持つ象徴的な意味を対比させて関連性をあぶりだし、不条理さを際立たせるというテーマも併せ持つ。それら複数の要素は意図的に混合され、希望と絶望、復活と再生、活力と無謀さといった概念が考察されている。作品を構成する個々の要素は、それぞれに独自のアイデンティティと文脈、また必ずついてまわる連想イメージを抱え、ひとりでに対話を始める。ウィンストンの作品は、郷愁と救済、そして再生といった概念を結合させながら、廃棄されたものに新しい生命を与えていくのだ。